対フランス戦で電撃戦が頓挫し、戦力の大半をフランスに回さざるをえなくなったドイツを後背からソ連が襲い、ヒトラーが自殺して第三帝国は崩壊。
更にソ連は勢いのままにヨーロッパの大半を解放してしまった世界。
なし崩し的に三国同盟が瓦解してしまった日本と、欧州で孤立してしまったイギリス、そしてソ連の拡大を一番望まない国アメリカが、対ソ戦の同盟を結んでユーラシア大陸を舞台に赤軍と戦火を交える壮大な仮想戦記。
考えてみれば日独伊三国同盟では唯一日本のみが自由経済を掲げていた訳で、ドイツやイタリアといった社会主義の亜流を掲げる国との同盟よりも、米英との同盟の方がイデオロギー的にはしっくりきます。
もっとも、事実ではソ連とアメリカが連合国として共に戦った訳ですから、イデオロギーなんてものも案外アテにならないものではあります。
1巻で描かれるのは、日本海軍がウラジオストックへの奇襲攻撃を敢行し、同時に陸軍が満州東部から国境線を越えてソ連沿海州方面に侵攻するまで。現時点ではアメリカはまだ宣戦布告はしていませんが、日本に各種兵器や資材の供給を行う形で事実上は参戦しているのと同じ状態です。
面白い事に史実ではソ連にレンドリースとして供与されたP-40やP-39、更にM3スチュアートなどの戦車も日本に供与されます。特に陸上兵器は日本軍のものではソ連の本格的な中戦車には全く太刀打ちできそうにないので、アメリカのバックアップは必須。とは言え、作中のソ連はドイツを占領してドイツの技術も吸収しているだけに今後どんな化け物戦車が出てくるか全く油断できない。
もっとも、ドイツとソ連の戦車は独ソ戦で磨かれ研ぎ澄まされて行った訳で、独ソ戦が行われないこの世界では精々M4を撃破できる程度の戦車までしか進化しない可能性も――それはそれで地味で嫌だ。
また、作者はP-39がなかなか好きらしく、後にこの機体に活躍の場を与えるつもりなのがうかがえます。
零戦相手にはあまり良い所がなかったP-39ですが、供与されたソ連では37ミリの火力を活かして襲撃機として使われ(これは作中世界の日本も同じ)ましたし、実は空中戦でも活躍して独軍機を大いに苦しめていたりします。
巴戦に巻き込まなければ結構優秀な機体だと思われ、後の活躍とやらが楽しみで仕方ありません。
なお作中では遠慮会釈無しに37ミリをぶっ放しまくっていますが、この機体は37ミリを連射すると燃焼ガスがコックピットに充満するという恐ろしい欠点があったらしく、考え無しに連射していると大変な事になりそうです。
あとは…ソ連軍からフェドロフM1916突撃銃が鹵獲されるシーンがあり、これが後の日本の自動小銃開発にどんな影響を与えるかも見所。
史実ではドイツは鹵獲したシモノフ自動小銃を参考にGew43自動小銃を開発した経緯もありますし、ソ連の兵器はどこまでも奥が深い。
敵はソ連ですが、むしろソ連萌えの人向け?