今泉 吉典
理由は不明ながらとにもかくにも人類が滅亡(本書の延長線上にあるテレビ版フューチャー・イズ・ワイルドは、2億年後の地球にかつて地球を去った人類――ジメッツ・スムート?――が探査プローブを降下させる所から始まるので、完全に絶滅した訳ではなさそうです)してから5000万年後の地球を舞台に、新しい環境に合わせて進化を遂げた動物達の姿をシミュレートしてしまおうと言う知的好奇心を否応なしに刺激してやまない一冊。
以前読んだ鼻行類と並ぶ、20世紀を代表する奇書と言われているアフターマンではありますが、実は割と真面目に生物学をしていて、所謂"僕の考えた怪獣図鑑"とは一線を画したものがあります。
ネットなどでは奇妙な蝙蝠の末裔であるナイトストーカー(表紙のクリーチャー)や、巨大ペンギンのヴォーテックスと言った押し出しの強い連中が好んで紹介されている為に、まるで怪獣図鑑の様な印象を持たれがちではありますが。
ドゥーガル・ディクソンさんは、現在の生物の生態や形状はほぼ完成されたものであり、何らかの理由によって特定の種が絶滅した場合、別の生物がその穴を埋める形で進化をするという考え方を基本としています。
ですから、鹿が絶滅すると鹿によく似た姿に進化した兎(ラバック)が出現し、猫科の肉食動物が絶滅すればネズミが危険な肉食獣に進化すると言った具合。
開いた穴を埋める方向に進化すると言う考え方そのものはたぶん正しいと思いますけど、姿まで絶滅種に似ると言うのはどうなんだろう。進化はそこまで律儀なものではないと思いますが、どうか。
その辺のことは置いておいて、やはりこの本一番の魅力はその味のある数々のイラストです。
ディクソンさん生物本の最新シリーズであるフューチャー・イズ・ワイルドではCGになってしまい、それはそれで色鮮やかで悪くは無いのですけど、やっぱり手描きのイラストの方が見ていて和むのは事実。
未来生物達のどこかコミカルなイラストだけでなく、各章の間に挿入されている砂漠や森林をイメージした挿絵がまた想像力を掻きたててくれて楽しい。
人類がいなくなっても地球はこんなにも魅力的で美しいものなんだと、厭世的でありながらもどこかメロウな気分に浸ってしまう。
生物学に興味のある人はもちろん、あまり興味が無い人でも充分に楽しめる一冊。
というか、むしろ必読。