陰山 琢磨
麻薬や海賊品などによる地下経済が世界の実体経済を蝕み始めた近未来を舞台にして、蒼穹の槍と呼ばれるテロ兵器をもって世界を恫喝する麻薬王に、図らずも蒼穹の槍の設計に手を貸してしまった日本人の男女が戦いを挑むという近未来サスペンス+軍事スリラー。
大石英司先生辺りが書きそうな内容ではありますが、衛星軌道上からマッハ8の砲弾を地上に落下させてインフラ施設を狙い撃つという豪快なアイデアは陰山氏ならでは。
ミサイルでもなく核でもなく、大砲の弾というところが戦車小説の第一人者らしいです。
そこはかとなくロケット技術や弾道学の香りが漂っていて、そう言うのに反応する人にはなかなか魅力的な世界観ではありますが、一般向けとするとややマニアックかなあ。
なにせ仮想戦記やSFのレーベルではなく、一般的なミステリーなども刊行しているレーベルだけに、ミステリーの客層からはオタク臭いだペダンティックだと嫌われそうな雰囲気満載。
まあ、逆にそれが良いんじゃないかと言う僕みたいなヒネクレ者もいるとは思いますが、少数派だろうなあ。
気になった点として、柏崎原発が蒼穹の槍の攻撃を受けて原子炉が全壊するシーンがあるのですが、それによって引き起こされるカタストロフの描写が極めて限定的なのはどうなんかなあと思う。
実際には施設の職員近隣住民はもとより、風に乗って関東平野まで放射能が運ばれる事で未曾有の大惨事になる筈なのですが、そうした部分は完全スルーされていた。
この点については陰山氏は若干2ちゃんねらてきな変な思想を持っている節があるので、「なあに、かえって免疫が付くニダ!」というアレを信じているのかもしれません。
まあ、戦争描写に関しては妙な思想は含まれていないのでさほど気にはなりませんけど、どうしても偶に漏出してしまうのは仕方ないよね。にんげんだもの。
逆に言うと気になる点はその程度で、あとは終盤のまとめ方がやや駆け足だったこと以外は不満なし。むしろエンタメとしてのレベルは高いです。
ホンダロボット最強。