平井 イサク
アルプス山中の要塞化されたゲシュタポ本部"シュロス・アドラー"に囚われた米軍将校を救出すべく、極寒の山中に降下した英軍コマンド達の戦い。
一応カテゴリー的には仮想戦記と分類しても良いのかなあと思いますが、内容はミステリーに近いものが多分にあります。特に降下した途端仲間の一人が何者かに殺害されるのを皮切りに始まる、誰が味方で誰がドイツの工作員かと渦巻く疑念。
シュロス・アドラーに潜入してからも、ミスリードを誘うが如くに二転三転するストーリーと繰り返される裏切り。誰が嘘を言っているのかすら判然とせず、つい今しがたまで仲間だと思っていた人物に短機関銃を突きつけられるサスペンスフルな展開が連続します。
終盤のケーブルカーでのアクション直前で一本化されるまでは、複雑に錯綜した登場人物の立ち位置を把握するだけでも結構大変で、何度も途中で数十ページ遡って読み返したりしました。
谷に渡されたケーブルカーでのアクションや、施設の破壊など派手なシーンもふんだんにあって見所は多いのですが、自分の場合過去に読んだマクリーン作品が「女王陛下のユリシーズ号」だけでしたので、壮大なスペクタクル的な描写がほとんど無くなっているのにやや違和感を感じたりも。どうもハリウッド映画用に書いた小説らしいので、その辺予算と尺にあわせてコンパクトに収まっているみたいですね。
いくら映画用に書いたとは言え流石にこの時代にヘリコプターは無かろうと思いますけど。実際たいして作中でのギミックとして活用された訳でもないですし。
厳密に言うとドイツにはFa223という異形のヘリコプターがあるにはあるのですが、長い胴体と左右に張り出した2基の巨大なローターなど、なかなか図体が大きい機体でしたので、ケーブルカーでしか行き来できない様な狭隘な地形で運用するには無理があると思います。しかもこの機体が実用に耐える完成度を得るのは戦後だし。
同時期にシコルスキーで実用化されたR-4は現代のヘリコプターの直系の子孫とも言える洗練された形状で運用の融通も利きそうですど、これは連合国側の話ですしね。
本当、なんでヘリなんて引っ張り出してきたんだろ…ハリウッド側の意向?