
艦上爆撃機としては世界最高水準の性能を有しながらも、持病とも言えるエンジントラブルの多さゆえに華々しい活躍にはあまり縁の無い彗星。
長大な航続距離と戦闘機並の優速を持ち、かつ急降下爆撃に耐える強度を持ち…という欲張った設計でありながら、それを何とか実現した当時の技術陣の努力には素直に賛辞を送りたい。
よく指摘される熱田エンジンの不調にしたところで、本書によると平均稼働率が50%程度を維持した部隊も多く、中には芙蓉部隊のように熟練した整備士と適切な機材を準備できれば平均70〜80%という、従来型の空冷エンジンに勝るとも劣らない稼働率をたたき出していた部隊もあり、同じ液冷でも陸軍の飛燕U型に搭載されたハ140に比べると遥かに信頼度が高かった事が伺えます。
しかしそんな彗星も末期には特攻機に改修され、その内容たるや敵の直援機を突破する為にコックピット周りに防弾版の増設、キャノピー前面に防弾ガラスを使用、燃料タンクも耐弾仕様――という、百中百死の戦術に供する為に生存性を向上させるという気の狂いぶりが厄い。それだけの改修が出来るなら通常攻撃に使うべきではないかと普通なら考えられると思いますが、当時の海軍には正常な思考が出来る余地が無かったと言う事なのでしょう。
世傑シリーズの通例で写真は実に豊富。
特筆すべきは終戦直後に撮影された半ば解体途中にある機体の写真が割と多く掲載されている事で、エンジン支持架や夜戦型の後部に搭載された斜銃などのディティールが良く判る事です。
模型好きの人向けの資料としても充分耐えうる、実用性の高い一冊。