今野 敏
極限の貧困の中で育ち、ただ金を得る為に格闘家の道を選んだ南雲凱。
裕福な家庭に育ち、真の空手道を究めようと鍛錬と研究に没頭する麻生栄次郎。
90年代初頭、日本の格闘技界に大きな変革の波が押し寄せた時代を舞台に、二人の対照的な若き武道家の姿が描かれる。
実はこの作品、1巻だけノベルスが出た2002年当時に読んでいたのですが、比較的地味な内容とその頃自分の中で格闘熱が急速に引いていく時期だった事もあってイマイチ印象に残っていませんでした。
なにせ2000年代に入ってから格闘技が急速に一般化し、同時にスポンサーにパチンコメーカーが名乗りを上げ始めたというのが嫌で嫌で、今まで楽しみにしていた中継も殆んど見なくなった次第。
正直今現在もかつて程の格闘熱はありませんが、昔集めていた某グラップラー刃牙を再び集め始めてから、熾火の様にくすぶっていた格闘熱に再び僅かながらも酸素が供給され始めた事もあっての再読。
全3巻(文庫版では上中下巻)と比較的短い物語ですが、今改めて読むと作者が描こうとしているのは血沸き肉踊る格闘絵巻ではなく、90年代前半のK-1やアルティメット勃興に始まる格闘技戦国時代の総括なんじゃなかろうかと感じる。
主人公からしてショービジネスとしての格闘技世界で頂点を目指す南雲と、そうした世間の時流からは一歩引いた所で求道者の如く研鑽を重ねる麻生という実に象徴的な二人ですからね。
上巻ではこの二人が直接出会うことはまだ無く、それぞれが別々の場所で自らの道を歩み始めるところまでしか描かれていません。
作者自身ショーとしての格闘技を批判するでもなく、かと言って伝統に固執する格闘技を揶揄するでもなく、ただ淡々と物語は進行するのみ。
ただ、プロローグではこの二人がリングの上で対峙するシーンが描かれていましたので、どういう物語の果てにそこに至るのかは興味深いです。
そしてその先に待つものも。