好川 之範
戊辰戦争の棹尾を飾る、箱館五稜郭を巡る戦い。
本書は幕府軍の鷲ノ木上陸から始まって、新政府軍の乙部上陸を経て降伏にいたるまでの各地での戦いの模様を、箱館の郷土資料や当時戦いに参加した人達の子孫に対するインタビュー等を通して解説した一冊です。
各地での戦闘だけでなく蝦夷共和国の内政の行き詰まりなども卒なくまとめられていますが、どちらかと言うと政治や戦術よりも人物に焦点を当てていて、一般的な歴史資料とはまた違った視点で書かれているのが特徴的。
ただやはり、一つ一つの戦いに関する記述はもう少しボリュウムが欲しいですね。山場といえる宮古湾海戦や二股口の戦いまでかなりあっさりと流されているのは物足りなさを強く感じます。
蝦夷地上陸から降伏までは僅か半年程度の期間の事なのですから、もう少し内容を増やして書いても良かったのではないですかね。ポイントこそきっちり押さえているものの、やや教科書的に過ぎるのが惜しまれるかなあ。
もっとディープなものを望んでしまうのは贅沢か。
そんな中、土方歳三を狙撃したとされる米田幸治に纏わるくだりは結構興味深く読めました。
著者も"伝承"という言葉を使っているように、正式な史実かどうかはよく判らない部分であり、騎馬武者を撃ち倒して駆け付けてみると、新政府軍に首級を挙げられるのを嫌った幕府軍側が首を切って持ち帰っていた、陣羽織には土方と書いてあった――という話ですが、一応当時の資料にも一本木関門で幕軍の重要人物か負傷し、助ける事は出来ないので首を刎ねて五稜郭に持ち帰ったという記述はあるらしいですから、あながち伝承と言い切る事も出来ない。もっとも、それが事実だとしたら新撰組ファンにはかなり恨まれそうですが。
こうした史実かどうかわからない部分も積極的に資料を突き合わせて検証していく姿勢は、個人的に歴史を扱う本に対して期待している部分のひとつでもあります。
全体としては割りとライトな歴史本。資料をまめに当っていて、著者の主観はかなり排されているので、この時代の歴史に興を持ち始めた人には丁度いいかもしれません。あらましは知っているけどもっと深く知りたいという向きには物足りないかもです。