1ページ目から地中海の抜けるような青空とギリシャの乾燥した空気が感じられ、作品世界に強く引き込まれました。
いや、実際の地中海の空がどんなのかは知りませんけど。あくまで脳内イメージと言うヤツです。
時代背景は1950年代末〜60年代初頭くらいでしょうか、まだ世界を揺るがしたあの大戦の余波が随所に残っていて、作品にも色々とそれが反映されているのも興味深い。
例えばある登場人物は…おっと、これはネタバレ直行便ですね。危ない危ない。
そういえば主人公の一人ケンがピアッジオの航空機に乗っていて、作中では機種こそ明記されていないですがガル翼やプッシャー式のエンジン配置の描写からしてP.166でしょうか。
初飛行が1957年、実用化に漕ぎつけたのは1962年らしいですから、この作品が発表された1961年にはまだ試作段階の域を出ていないし、作中の時代ではまだまだ初飛行にすら至ってない可能性もありますが、敢えて気にしない。
ラディカルな形状の試作機を引っ張り出してくるのは男のロマン。ラプたんより今は亡きYF-23に萌えるあの感覚にも近いのですよ。
それはともかく。
物語はもとRAFパイロットで、戦後は個人営業規模の空の運び屋をやっているジャックとライバルのケンが、宝物の争奪戦に巻き込まれていくという比較的シンプルな構成。しかし、以前読んだ深夜プラス1もそうでしたけど、比較的シンプルな大筋に見せかけて内部にはそこそこ細かい伏線が張り巡らされていたりするので油断は出来ません。
この作品が処女作と言う事で、後の作品に比べるとまだ伏線の数は少ない方みたいではありますが。
輸送機と言う比較的地味な機種をメインのギミックに据えていながら、そして輸送機の限界を逸脱したような無茶を一切やらかさずにいながら、それでいて航空冒険小説としての読み応えと面白さをきちんと持っているのが凄い。
また、この作品のメインであるジャックとケンの二人のキャラクター性がどことなく深夜プラス1のケインとロヴェルに重なるものがある事も面白いです。互いに相手のことを認めつつも、決して馴れ合わない微妙な距離感とか、皮肉や軽口の叩き合いとか。
まだライアル作品は2作目なのでよく判りませんけど、もしかしてこれがライアル作品の特徴と言うか、一つのカラーなのかと思ってみたり。