北川 和代

北海やフランス沿岸で発生していた災害が一気に北米まで拡大する中巻。
スケールが大きくなったのは結構な事なのですが、その割にyrrの行動原理が人類に対するテロ攻撃と言うのにはちょっと脱力しました。もちろんこれは人類側の推測でしかなくて、実際のところはまた違った真意があるのかもしれませんが、この作品が執筆された当時世界は対テロの戦いで沸き返っていた事を含めて考えると、自然に対する収奪ととまらない海洋汚染で業を煮やしたもう一つの知的生命――yrrが人類に宣戦布告したという安易なストーリーもあり得るだけに厄い。
文化の問題なのかどうか知らんけど欧米の人は物事を全て人間の基準で計る思考をしますから、未知の知的生命がどこぞのテロリスト的な考え方をしてしまっても仕方ないのか…。
異種の知性と異種の文明を持つ相手ならば思考ロジックもまた異なっていて然るべきだと思うのですが。
そんな中大いに笑ったのが、細菌兵器を満載した特攻カニによる大規模テロ攻撃に晒されたアメリカが対yrr戦に参戦する経緯。大統領がアメリカは世界で唯一神に祝福された国だとか口走るし、お得意の善悪二元論が始まるわで、作者基本的にアメリカ嫌いだからこんなカリカチュア(とも言い切れないところが厄い)しただろとツッコミ入れたくなる代物。アレじゃただのカルト信者だぜ…。
現実問題yrrはあくまで現時点では人類側の推測と過程の存在であり、仮に存在したとしても深海での戦いなんか想定していない現有兵器が通用する相手とも思えません。核爆雷でも爆発させまくって…というのはさすがに自滅パターンですし、アメリカの鼻息が荒いのは結構ですが具体的にどう立ち向かっていくかは気になるところ。
深海のyrr 上巻 感想