Tove Jansson 下村 隆一
北欧の夏というのが一体どんなものかは知らないけど、この作品を読む限り日本の暑苦しい夏とは全然違うんだろうなと感じました。
世界有数に湿度の高い夏を宿命付けらけた日本ではここ何年かの気温上昇も手伝って非常に忍耐を要求されるシーズンというイメージが強いですけど、北欧…そしてムーミン谷の夏は静かに生命が息づく季節という感じ。
洪水で家が沈んでしまったというのに、決して悲観的にならないムーミン一家のポジティブさが凄い。
これは物語だからそうなのか、それとも海外の人は日本人ほど土地屋敷に執着が無いのか、非常に気になる部分です。
流れ着いた劇場にムーミン一家が移り住んでも、元の住人であるエンマは一家を追い出そうともしない感覚も、やはり日本では考えられない。こういうところが文化の差なんだろうなあ。
この巻では物語の流れが幾つかに分岐し、そしてまたラストで一つになる構成となっています。
具体的には劇場のムーミンパパ達、途中ではぐれたムーミンとスノークのお嬢さん、そしてスナフキン。
この3つが時々接点を匂わせつつ同時並行的に進行して行くため、今までの視点が比較的固定された作品よりは慌しさを感じる部分もなきにしろあらず。
ですが、3つの流れ全ての根底に家族の愛情や信頼という共通したテーマがあるため、非常にまとまりが良くて読みにくいと言う事は決してありません。
ラストで冒頭ムーミンママが作っていたミニチュアのボートがさり気に使われているのも上手いなあと感じた。
ところで読んでてフィリフヨンカってこんなキャラだったっけ?と感じたので調べてみたら、フィリフヨンカって個人名ではなく種族の名前だったそうで…でもそれで納得。
では叔父がフィリフヨンクと言うのはどうしてなんだと疑問もありますが、多分性別によってヨンカだったりヨンクだったりするのだろうと勝手に解釈しておきます。