三木原 慧一

一応仮想戦記の体裁を取っているくせに、何とこの2巻では戦争シーンがありません。
その代わりに目の前に迫った日米開戦へと向けた策謀がこれでもかと渦巻き、そうした策謀と時代の波の狭間でもがく事となる伊達と田宮の姿を浮き彫りにしています。要するに次の巻からの本格的な戦争に向けての"溜め"の役目を果たしているのがこの巻というところ。
戦争こそありませんが、伊達の仕組まれた脱走劇や戦争に向けた新兵器の披露、そして英雄として合衆国に凱旋した伊達を待ち受ける妹萌えの甘い罠と、ロリコン大王ベリヤ様が見てるあれやこれ。
後に作者の愛称とまでなる伝説の劇中小説「社会主義はメイドスキー」の第一章…と、数え上げればきりが無いほどの伏線と仕掛とネタが散りばめられていて、決して退屈する事はありません。
思えば最初この作品を読んだ時にはあまりに仮想戦記らしくない作品の造りに面食らったものですが、一度馴染んでしまうとこれが普通に思えてくるから厄い。
この後ネタに走った仮想戦記を幾つか読みましたが、この作品で下地を鍛えていたからこそ楽しめたという側面は確実にあります。
しかし…多分イラストのせいだと思うんですけど、4式中戦車がどう見てもstrv103にしか見えないのはどうなんだろう。
この作品は上記のようにネタ満載で、更には作者の資本主義への皮肉がたんと込められているためにやや霞んでしまってますが、登場兵器も結構アレなんですよね。
技術水準が全世界的に史実より10年ほど進んでいますし。
もっとも、この作品における第二次世界大戦はファシズム・ナチズムとの戦いではなく、社会主義陣営vs自由主義陣営の様相を呈しているだけに、50年代〜60年代のスメル漂う兵器や世情のほうがしっくり来るのも事実ですが。
クリムゾンバーニング1裏切りの赤い大地 感想