筒井 康隆

年齢を重ねても曲がったものは絶対に許せない心を持ち続ける事を厨房力という(らしい。たぶん)。
なんだかよく判らない権威を嵩に着る連中にはとことんまで食い下がる魂を厨房力という(らしい。たぶん)。
自分の気に食わない森羅万象全てを揶揄して物笑いのネタにする筆力を厨(以下略)
老いてもなお盛んな厨房力を発散する筒井康隆氏の短編集です。
どの短編からも、長いものには巻かれない、流行ものには流されないという筒井氏の熱い魂が感じ取れて、こんな風に歳を取るのも悪くないなと思わせるものがあります。
特に世情を風刺しながらも特定イデオロギー方向へのベクトルは無く、ハリネズミの如く全方位に針を尖らせて噛み付く姿勢が心地よい。本来風刺とはかくあるべしと思えます。
左翼活動を皮肉った新宿祭やマスコミ批判を含んだヒノマル酒場などは、現代のネット勃興した特定思想の方面には非常に耳障りの良い作品ですが、その一方で表題作である日本以外全部沈没ではそのキャッチーなタイトルに反して日本人に対する皮肉が強く込められていて、タイトルに釣られて金甌無欠ゆるぎなきわが日本の誇りなれ…とワクワクドキドキしながら読んだ人のピュアなガラスのハートを打ち砕くに充分な内容となっています。
というか、昨年末からの経済危機に際して最初のうちは「日本には打撃が少ない」「先進国では一番傷が浅い」と言っていたのに、あれよあれよと言ううちに危険水域を超える沈没ぶりを晒して最早笑うしかない状況となった流れにどこか重なって見えて厄い。
侮れないな厨房力!
正直SFなのか?と問われると返事に窮するものはありますが、風刺作品としては現代でも充分に通用するものばかりなので、本屋ででも見かけたら手にとって見る価値はあると思います。

