三木原 慧一

世の中に仮想戦記は星の数ほど存在し、中でも日米戦を取り扱った作品がその大半を占める中にあって一際異彩を放つこの作品。
ロシア革命に失敗した一派がアメリカに亡命し、そこで共産革命を成功させてしまったと言う悪夢のような世界が舞台となっています。
ソ連以上の工業力を持つ国家が共産化…考えただけでも
フィリピンの内戦に義勇軍と言う形で参戦している赤化アメリカと、日本をはじめとする自由主義陣営諸国の衝突が1巻で描かれますが、おそらくはこの戦いを通して史実とは異なる第二次世界大戦へと発展していくのだと思われます。
史実でいうとフィリピン内戦=スペイン内戦に置き換えても問題ないでしょう。
実際にはスペイン内戦にはソ連とナチという二大独裁国が首を突っ込んでいるわ、世界各国から共産主義に憧れた若者達が義勇兵として駆けつけるわでもっと複雑な構図を成していたのですが、たぶんその辺まで反映させて真剣に描くと単行本3冊分くらいの分量になりそうな気も。
実際この本で描かれるのはかなり限定された戦場だけです。
限定された戦場だけを描くとなるとどうしても全体の構図は見えにくくなるのですが、しかしこの作品は大きな視点で大戦略の妙を愉しむ系統のものではありません。
特定の個人――主人公伊達と、彼を裏切ってアメリカに寝返った親友田宮の愛憎劇?が物語を貫く軸となっていて、そこに鬼面の指揮官鬼貫田や奇人辻政信などの面子が華を添えるという展開。
また、敵である赤化アメリカ側の人間ドラマもコミュニズムに対する諧謔をふくませながら描かれているのも特徴。
敵には人間性を認めないが如き戦記作品が氾濫する中、これは非常にポイントが高い。
それにしても三木原先生は社会主義に対してたっぷりとペーソスを盛り込んではいるものの、社会主義ヘイトという感じではないのが厄い。
もちろん僕個人の感覚としては、特定の思想を全肯定して、それのアンチテーゼとなる思想を全否定する在り方の方が気持ち悪くて危険な代物だとは思うのですが、それでも社会主義に対してはあまりに悪いイメージが定着しすぎていますからね。
人を選ぶ作品なのは間違いない。


