2008年11月28日

虎口からの脱出 感想 景山民夫

虎口からの脱出 (新潮文庫)



張作霖爆殺事件の工作現場を目撃してしまった中国人少女麗華を連れて、奉天から上海への大脱出行。

追っ手は秘密保持の為に少女の口封じを狙う関東軍、総帥死亡の秘密を探る為にも少女の身柄を確保したい奉天軍。さらには蒋介石率いる国民党軍まで現れてまさに虎口状態。


前半…張作霖の乗った列車が爆破されるまでは、正直なところそこまで面白いとは感じませんでした。
僕自身この時代の大陸における勢力図が全く頭に入っていないと言うのが一番の理由で、関東軍の暗躍を見てもああそうなんだ…という程度の感想しか思い浮かばなかった訳です。
張作霖の爆殺に関しては今丁度コミンテルン陰謀論なんかが出てきていてホットな話題なんですけどね。
この辺は恥ずかしながら勉強不足なので、もう少し掘り下げて勉強したいと思います。興味のある時代ですし。


物語が大きく動き始めるのは中盤から。
陸軍少尉の西真一郎は吉田茂から、麗華に関東軍の工作に関する目撃証言をさせるために彼女を上海から船に乗せて日本へ連れて行くよう依頼され――ここから上海を目指して大陸縦断1600キロの大逃避行が始まるのでした。
関東軍の検問を突破し、人海戦術で迫る奉天軍の包囲網を突破し、MkW戦車を撃破して西達はひた走る。
逃避行の連れとなったアメリカ人運転手オライリーも、愛車(予定)のデューセンバーグのトランクからブローニングM1919重機関銃を取り出して人間銃座と化す大暴れぶりですよ。
国産の冒険小説は概して小さくまとまった作品が多い中、海外の作品と比べても引けを取らないスケールとケレン味が凄い。

物語の最後で、麗華が関東軍の工作を目撃するに至った諸々は吉田茂の仕組んだ事で、目撃者に全ての軍閥の注目が集まるようにして関東軍と奉天軍との直接的な衝突を回避させる策だったとか明かされるのも、複数の陰謀が交錯しあう冒険小説らしさを感じさせてくれます。
いや、名作との評判どおりに面白かったとです。
映画化されないかなあ。
もっとも、今の時期に映画化すると、張作霖の件を巡って反日だ何だと叩かれそうな気もしますが…。
イデオロギーって恐ろしいですからね。



posted by 黒猫 at 22:45| Comment(2) | TrackBack(0) | 冒険 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。
同著者の遥かなる虎跡もぜひ読んでください。
世間ではあまり評価されてない向きもありますが、この2冊は合わせて読んでニンマリするべきだと思ってます。

主人公のファーストネームから某コミックの主人公が連想できるとさらにニンマリです。
Posted by sintake at 2010年04月16日 15:22
sintakeさんこんばんは。
情報ありがとうございますーノシ
ちよっと調べてみたら主人公の名前…えーと、タイの無法地帯な街にいるあの人ですかね。ニックネームも同じみたいですし。
なんか興味が湧いてきたので今度読んでみたいと想います。
Posted by クロネンコ at 2010年04月22日 22:43
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