2008年11月21日

鉄獅子の咆哮―満州1945 感想 内田弘樹

鉄獅子の咆哮―満州1945 (歴史群像新書)
内田 弘樹
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志は高く目指すは黄色アーリア人。
ウンターメンシェの座に甘えるな。あの輝ける鍵十字の旗の元に、集えドイッ厨ラントの同志達よ!


…一口で言うとそういう小説です。
とにかく日本人にドイツ軍のコスプレをさせて、ドイツ軍の戦車に載せて、憎きロスケをちぎっては投げーの、ちぎっては投げーのをさせる為にはどうすればいいか…という着想で歴史を再構築した怪作。

史実ベースでソ連と開戦すると、米ソに挟撃されて1年で降伏と言う厄い結末しか見えてきません。
そこで、満州国成立時の経緯を改変して米国との開戦を避ける方向に持って行っていますが、かなり無理があるのは言うまでもありません。満州国の成立そのものを見送ればあるいは対米戦は回避出来たかもしれませんが、それだと大陸を舞台に押し寄せるソ連軍をちぎっては(以下略)の状況を作る事は不可能ですし…これは前提からして無理があるのでは…。

更にウルトラCとして、主人公野上武(これの作者の人に違いない)達はドイツに義勇軍として派遣され、武装SSの一員として戦って来たという設定があります。
戦争末期で兵員が致命的に不足してからは外国人もSSに受け入れていましたけど、それまでは外国人――それも有色の劣等人種(!)をSSなんぞに受け入れた日には、ナチスの掲げる人種イデオロギーが瓦解してしまうのは言うまでもありません。
ただ、作中でSSはヒトラーの私兵じゃない云々と言っていたので、我々が知るナチスやSSとは違う思想と生い立ちを持つ組織と言う可能性もなきにしろあらず。
違う可能性の分岐を歩んだ所謂平行世界という奴ですね。
仮想戦記なんてみんな平行世界ですけども。

ともかく、SSの一員として鍛えられた主人公達がドイツ降伏時に米軍の捕虜となり、今度はアメリカの傭兵としてアメリカと日本が共同で魔改造したX号改パンターU(鹵獲したパンターに増加装甲と65口径長10センチ砲を搭載した戦車)を受領し、満州に押し寄せる赤軍と戦うという話です。
つまるところ赤軍による暴虐の嵐に立ち向かうにはアメリカの後ろ盾が無いとミリと言うこの上なくロマンが無い現実を突き付けられる訳ですが、こればかりは事実なので仕方が無い。
むしろそこに至るまでの改変劇がかなり苦しいものばかりでしたから、嫌だろうと何だろうとアメ公がいなきゃ何も出来ない現実を持って来る事でプラスマイナスゼロになっている所もある訳で。


なお、本作品の真の主役たる魔改造戦車は日本側だけでなく、ソ連軍もでっち上げて来ます。
占領したドイツ国内の工場から入手した128oPAK44をИС-3の砲塔を大型化して乗せたゲテモノ戦車"Объект"がそれ。
外見的にはИС-7(Объект260) に似ている感じですかね。
オブイェークトと言う言葉は「対象」と言う意味なので、車両の固有名詞にするのはどうよと言う気もしますが、ソ連の戦車を語る上では欠かせない要素の一つであり、神に捧げる祈りの言葉でもあるのでネタ優先と思って納得しましょう。というか納得しろ。
壮大なネタ小説なんだから…w

作者が若い事もあって、三木原メイドスキー氏程突き抜けた悪ふざけに至っていないのがやや残念ですが、随所に散りばめられたゲームネタ、アニメネタなどなど、将来性を期待させるものはあります。
設定の小ネタは充分なので、後は登場人物を良い感じにイカレさせることが出来ればより面白くなると感じました。



タグ:内田弘樹
posted by 黒猫 at 02:29| Comment(0) | TrackBack(1) | 戦記・ミリタリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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