スティーヴン・ハンター
四十七人目の男[下] (扶桑社ミステリー ハ 19-15) (扶桑社ミステリー ハ 19-15)
スティーヴン・ハンター
「狩りのとき」で一応の結末を迎えたボブ・リー・スワガーの物語でしたが、たぶん作者の事情かなんかで帰って来ました。
ただし、今回はライフルはおろか銃の類は一切使わず、一振りの日本刀に全てをかけて悪を斬ると言う著しい番外編。
いわゆるスワガー・サーガの系譜として読むと面食らう可能性がありますが、事前にチャンバラものと知った上で読むのならこれはこれでなかなか面白い作品です。
武器がライフルから日本刀に変わっただけでなく、作品のの舞台もアメリカから日本へ。
太平洋戦争末期の硫黄島の戦いにおいて、スワガーの父アールの命を救った日本軍の矢野少尉が持っていた1本の刀を巡って現代版忠臣蔵とでも呼ぶべき物語が繰り広げられます。
もともと作者のハンター氏はオタク気質と言うか、銃器の描写がやたら細かくて拘りが感じられるのが特徴でしたが、今作では日本刀の描写が異常に細かくて参ります。
確かに日本刀は海外の刀剣に比べると製作に圧倒的に手間がかかっていて、だからこそ武器としてだけでなく美術品としての価値も高く評価されている訳ですが、やはりそこがハンター氏のオタク心の琴線に触れてしまった模様。
刀の美しさをここまでくどくどと書いた作品は初めて読みましたw
あとがきによると、ここ最近のアメリカ映画の低調ぶりに落胆し(ハンター氏の本業は映画評論家)、何か海外の映画にめぼしいものは無いかと物色している時に出会った「たそがれ清兵衛」に心を捉えられてしまったハンター氏は、それ以降時代劇映画にどっぷりハマってしまい、自分でも時代小説を書いてみたくなったそうです。
しかし本格時代劇を書くほど日本に関する資料も知識も無いので、現代を舞台にして時代劇のエッセンスを盛り込んだ作品を書く事にした――と。
その現代の日本の描写にしても、日本人の名前が変だったりして不思議の国NIPPONになっている訳ですが、まあこれはご愛嬌。
作者がいかに時代劇にハマっているかと言う部分はヒシヒシと伝わってくるので、そこを評価したい。
作中に於けるスワガーの一部行動は作者自身を投影した部分があるらしく、スワガーがブシドーを知る為に時代劇のDVDを見まくったり、日本酒を痛飲したり、焼き鳥やラーメンが気に入ったりするのは、まず間違いなく作者自身の姿だと思われます。
あと日本の性文化に眉をひそめるのは、南部の敬虔なクリスチャンゆえか。正直日本人から見ると清教徒の倫理観は堅苦しすぎて、君達何を楽しみに生きてるの?と思うところもあったり無かったり。
しかし日本人のエロ妄想力に言及していた部分に関しては、鋭いと言わざるを得ない。
やはり人種と宗教は違えども、オタクの魂に響く何かがあるのだと信じたいw