トーベ ヤンソン
ムーミンの漫画版。
もともとはイギリスの新聞に連載されていた漫画と言うことだそうです。
日本の新聞の4コマ漫画とは違ってある程度大きなストーリーに沿って物語が展開するのが特徴で、日本の新聞の掲載作品に例えるなら連載小説の方に近いかも知れません。
1巻に収録されているのはムーミンの尻尾に黄金の毛が生えて来ることで巻き起こる騒動を描いた「黄金のしっぽ」、パパの気まぐれで突然一家が灯台守になる「ムーミンパパの灯台守」の2編。
前者はしっぽが黄金になった事が新聞やテレビで報道されて突然有名人になってしまったムーミンを通して、ブームの盛り上がりと急速に醒めて行く様を風刺した短編。
有名になった途端に、黄金のしっぽの本家本元は自分だと主張して起訴してくる人物が現れたりと、今までのムーミンのイメージを覆す生臭さが何ともいえない。
ムーミン谷ってもっと街から離れた深い森の中にあって、そういう世間のゴタゴタから隔絶された世界だと思っていたのですが、どうやらそうでもなさそうです。
日本でも昔エリマキトカゲとかの珍獣ブームが猛烈に盛り上がり、一気に醒めて行く事が何度かありましたので何となくブームの滑稽さが判るなあ。
2編目は灯台守の募集広告を見たパパがロマンを求めて応募し、一家で灯台島に引っ越す事になる話です。
こちらは「黄金のしっぽ」と違って従来のムーミンのイメージに合致した作品。
やはりこういう作品だと作者の国の風土が出るのか、比較的波静かで多数の小島が点在する海の描写からはフィンランド湾を連想させるものがあります。
温暖な地域の海と違って、色彩に欠けた鈍色で寂寥感が強く漂っているのも北の海のイメージどおり。
更に灯台島に機雷が流れ着くあたりは、フィンランド湾の最深部に厄い国の重要港湾都市レニングラード及びバルチック艦隊の母港クロンシュタットが存在する事を連想させて(原作小説でもアメリカからのラジオを受信して聞くシーンがあるので、当然作中世界にソ連が存在していても何の不思議も無い)、一見平和なムーミンワールドもやはり世界の大きなうねりの影響からは免れ得ない様です。
ある意味、こういう背景に何がしか皮肉が透けて見えるところがこの作品の味と言うか、単なる児童文学の枠内に収まりきれない部分だとは思うのですが。
小説版ともども折に触れて読んで行こうと思ってます。
小説版
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