鈴木 五郎

ルフトヴァッフェが誇る傑作戦闘機Fw190シリーズを中心に据えて、同機の誕生から最終発展型Ta152までの変遷と最大のライバルBf109シリーズや好敵手のスピットファイアとの性能比較を、多数の資料を元にまとめた1冊。
個人的にもFw190シリーズは好きな飛行機なのでなかなか興味深く読めました。
原型機であるFw190V1の愛嬌のある姿とか、190シリーズの奥の深さを見せてくれます。
ドイツと言うとメッサーシュミットがあまりに有名で、多分ミリタリーにあまり関心の無い人でも名前位は聞いた事があると言うレベルですが、反面Fw190は知名度が今ひとつです。
しかし、加速力、上昇力、旋回性と言った空戦性能はメッサー109シリーズよりも優れていますし、何よりもコンパクトにまとめたせいで発展性に欠ける109に比べ、余裕のある設計で将来の発展性に富み、さらに爆弾を積んで対地攻撃や魚雷を積んで対艦攻撃にも使用できる多用途性も併せ持つ非常に優秀な戦闘機でした。
なのに主力になり得なかったのは、偏にナチ党党員だったメッサーシュミットが優遇されていただけと言う喜劇。
個人的にはフォッケウルフ社とハインケル社の機体をメインで生産していたら面白い事になっていたと思うのですが…ただしHe177は無かった事にして(笑)。
基本的には良く纏まった一冊ですが、気になる点も色々とあります。
例えばドイツ空軍内で連合軍爆撃機に対する体当たり攻撃「シュツルム・フリーガー」の案が出されて、即却下されたくだりに関してですが、これを筆者は
「日本の特攻攻撃と違って突入前の脱出を前提にしていた」
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「日本では空対空の特攻を組織だって行っていない」
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「結局ガーランドの反対でお蔵入りとなった」
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「脱出前提と兵士を大切にするドイツ軍は紳士の軍隊」
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「さらに特攻などばかげた事を取りやめるドイツ軍は欧州的優しさに溢れた軍隊」
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「日本猿には思いつく事すら出来ない対空特攻を考えるドイツ人は賢い」
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「だからドイツ軍はすごい」
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(結論)
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「俺様黄色アーリア人カッコイイ」
と言う満ち溢れるドイッ厨ラント精神で書き散らしているがとことん厄い。
まず、日本には組織だって対空特攻を行う考えが無かったというのが大嘘です。
ちょっとでもミリタリーに関心があれば「震天制空隊」の存在を知らないとは思えず、著者は大好きなドイ厨第三帝国をマンセーするために史実を歪曲したとしか思えません。
もし本気で知らなかっただけとするなら戦史研究家としての資質を疑います。
また、脱出前提云々に関しても、機体もろとも突入というのは神風特攻隊や振武特攻隊の話であり、対空特攻については脱出前提でした。この点でも史実を歪曲捏造しており、本当にこの著者は日本人なのかと疑わしく思えます。
更にドイツ人は特攻なる野蛮な事は否定したと言う点についてですが、「エルベ特別攻撃隊」の存在を隠蔽しています。
しかもエルベ特別攻撃隊は、今年の6月頃に当時の指揮官により日本の特攻隊に触発されたという証言が出ており、この点でも超失格。
戦闘機のデータ比較などは比較的公正なのに、趣味趣向で史実を歪曲し捏造し隠蔽する姿勢はとてもじゃないが評価できないですね。
ついでに言うと第二次世界大戦最優秀戦闘機はP-51という定説に対しても、「各種データはTa152が優れているからTa152こそ真の最優秀機。P-51はバランスが良いといういう意味での最優秀に過ぎない」との見解を出していますが…。
この著者は兵器とレーシングカーの区別がつけられない人なんでしょうか。
戦争の道具に求められるものは瞬間最大風速的な性能ではなく、汎用性多用途性生産性です。
P-51の凄いのはアリソンエンジン時代は凡庸なヘタレ機だったのに、マリーンを積んだ途端大化けした発展性であり、そして何より長距離飛んで対地攻撃から空中戦までこなす万能性。
それは初期のFw190が持っていたものと同じと言えます。
著者はドイ厨マンセーしたいが余りに、その点すら忘れ去ってしまっているのが厄い。
もっとも、この手の研究家には紫電改無敵神話を唱える御仁もいますし、1冊読んで真に受けるのは危険という教訓だと思うしかないですね…。