米村 圭伍
若殿様と山童の友情と成長を、陸奥の国の小藩で繰り広げられるお家騒動を背景にのほほんと描く時代劇。
一応時代物と言う事で立ち回りもあるにはありますけどその辺は控えめで、メインはやっぱり若き折笠藩藩主三代川正春と、山に一人で住んでいる野生児ハヤテとの軽妙なかけあいの面白さにあると思います。
どちらかと言うと講談調の物語で割と都合の良い展開も多いのですが、時代物だとその辺かなり許せてしまうというか、あまりシビアでない方がらしいのも事実。
著者の語り口からして柔らかい感じですし、気楽に読むのには最適でしょう。
正春は年若い事もあってか基本的にお人よしで、厄介事からは目を背けるタイプなのですが、そうであるが故に藩内に渦巻く不穏分子を増徴させてしまい、常に暗殺の危機に立たされていて――でもやっぱり立ち向かう事よりも目を背けて逃げる事を選んでしまうプチ駄目人間です。
一方のハヤテも、父親が凶状持ちとなったことを知って逃げ出し、放浪の末に藩によって一般人の立ち入りが禁止されている山に隠れ住み、毛皮を売って金に換えたり米を買ったりする用事以外では極力山から出ないある種の引きこもり人間。
この二人が出会い、互いに成長してゆく様が大きな見所の一つでしょう。
脇を固める登場人物たちもそれぞれの役目をきちんと果たしていて、物語を盛り上げてくれます。
基本的には1話使い捨ての登場人物が多い中、最初から最期まで登場する準レギュラーの箕島弥乃助が個人的にはお気に入り。正春に対して、禄さえ貰えれば藩主は必ずしも正春で無くとも問題ないと言う旨の台詞を平気で吐ける半面、正春の使いで旗本の屋敷に届ける箙を盗まれた際には、腹を切るつもりで盗まれた旨旗本に正直に申し出ると言う、自らの信念に生きる武士です。
主は誰でも良いとしても、自らが誓った忠義にだけは誠実でありたいという、ある意味不器用かも知れない生き方が素敵w
ところで他の方のレビューを見ると、米村氏の他の著作の登場人物もゲスト出演しているらしいのですが、これが初めての米村作品なのでその辺の遊びが楽しめないのは残念です。
機会があれば他の著作も読んでみたいですね。