2008年09月08日

暗夜 志水辰夫 感想

暗夜 (新潮文庫)暗夜 (新潮文庫)
志水 辰夫

新潮社 2003-01
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おすすめ平均

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主人公榊原俊孝が弟の死の謎を探るうちに、中国と日本の間に横たわる古美術品の密売ネットワークの存在を知り、どんどんと深みに嵌っていくという、独特の読後感のある作品です。




現在でこそ中国が恐ろしい格差大国である事は周知の事実となりましたが、この本が出版された当時は改革解放の美辞麗句に酔い、先富論という共産主義以上に机上の空論でしかない代物を崇め奉っていた時期です。
そんな当時に、中国の都市と農村の間に横たわる絶望的なまでの格差や党の腐敗を余すところ無く描いていると言う点で、非常に読み応えのある作品でした。
そして、改革と言う威勢の良い言葉に酔い、上げ潮論という先富論の模倣を無邪気に崇め奉っている我が国の現状を改めて考え直さされる作品でもあります。

物語自体は弟の死の謎を追っていた筈なのに、いつの間にか古美術の闇ビジネスに手を染めたりと一貫性はあまりありませんが、そもそも本の煽り文句自体が

女か、金か、復讐か!弟の仇を討つのが目的ではなかった。真相を知りたいと切望したわけでもない。事件の背後から漂ってくる退廃と悪徳の臭いにひきよせられたのだ。修羅場でしか生きられない男の不毛の挑戦がはじまる。


という代物なので、ミステリーと言うよりは一種のピカロ的作品と見たほうが良いと思われます。
ピカロと言っても暴力的なシーンは皆無に近く、駆け引き部分の占めるウエイトが大きいのは美点。ピカレスクとバイオレンスは違うと思いますよママン。
交渉術と胆力を頼りに自ら進んで危ない橋を渡りに行く姿は、はっきり言って莫迦野郎でしかないですが、そういう生き方しか出来ない愛すべき莫迦野郎なんですよ。主人公は。

テンポの良い会話とダイナミックな展開。志水作品としては物足りないという評もありますが、初志水としては割と好印象。これで物足りない部類なら、絶賛されている作品は一体どんなものやら――興味津々です。 
posted by 黒猫 at 22:57| ミステリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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