2012年04月23日

修羅の戦野3-4巻の感想

修羅の戦野〈4〉ハルピン最終決戦 (C・NOVELS)修羅の戦野〈4〉ハルピン最終決戦 (C・NOVELS)
横山 信義

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修羅の戦野〈3〉北満州追撃戦 (C・NOVELS)修羅の戦野〈3〉北満州追撃戦 (C・NOVELS)
横山 信義

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2巻で遼東半島まで追い込まれた日米軍だが、扶桑山城の旧式戦艦の奮闘と米軍の来援によって戦局を出していた聞き返し、いよいよ最終決戦の地ハルピンへ。
米軍の新鋭兵器を受領した日本軍に対して、どういうルートかは良く判らないがドイツからの供与された新鋭兵器で立ち向かってくるソ連軍。Ta152やHe162が満州の空を席巻する…かと思いきや、P-51Hと僅差の勝負になっている。日本のミリオタの間ではドイツ軍無敵神話がまことしやかに語られているので、マスタングとどっこいの勝負というのは不満を感じる人多いだろうなあ…。
ただ、ドイツ軍はいざしらず、例えば国産の戦闘機は日本の軍オタの間ではすこぶる評判が悪く、口さがない人はイタリア機以下とまで評してますけど、実際に対峙したアメリカではそれなりの評価を受けていたりする訳で、そこらの軍オタの評価が常に正しいとは限らないのもまた事実です。

で、決着の形としては朝鮮戦争をオマージュした形に落ち着け、荒唐無稽な方向に持っていかなかったのは良いと思う。
いくらアメリカの支援があってもソ連を打倒できる国力は日本にある訳ないし。
作者曰く修羅の波濤世界はこの作品を持って完結らしく、修羅世界がこの後どうなっていくかは想像するしかないのですが、日本の置かれた立場は現実の状況とたいして変わらず、違う点といえば中国や朝鮮に共産主義が蔓延ってない事程度なんですけど、同じ自由主義圏でも韓国との関係は見ての通りですし、中国は自由経済に舵を切って豊かになるにつれ高圧的になってきていますので、東西陣営の最前線が日本本土から離れた満州の地に移動したからといって、それで史実の日本とどのくらいの違いが出るかというと、実は殆ど変わらないに一票。
でも、架空の歴史物って現実との近似値内でどこまで捻る事ができるかが醍醐味だと思うので、これはこれでよいのです。



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2012年04月16日

『関東軍風速0作戦―対ソ気球空挺侵攻計画の全貌』の感想


関東軍風速0作戦―対ソ気球空挺侵攻計画の全貌 (光人社NF文庫)
鈴木 敏夫
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世間一般的には風船爆弾として知られる日本軍のふ号兵器。
風船という牧歌的イメージのせいで、当時の日本軍の技術的に未熟だった部分を強調する際に引き合いに出される事も少なくないようですが、当時太平洋を超えて北米大陸まで到達可能な兵器なんてこれ以外存在しません。まだICBMなんて無かった時代に、大陸間攻撃が可能なふ号兵器。これを原始的と笑うのは自らの無知を曝け出しているようなものです。
風船本体にしても、和紙に蒟蒻糊という製法は一見すると原始的にも思えますが、苛性ソーダ処理の化学反応を利用して靭性を持たせるなどしっかりとした工夫がなされています。また同じ浮揚力を持つゴム風船より軽く気圧の変化による膨張や収縮に対しても強い点も見逃せません。
実は結構考えこまれた兵器だったんですね…インスピレーションだけから生まれた様なパンジャンドラム等よりは。


とは言え、本書は北米を攻撃するための風船爆弾そのものを取り扱ったものではなく、ふ号兵器を挺進攻撃に使おうと考えた技術者の苦闘(実際は結構楽しそうでもある)の記録。
具体的には満州から兵員を吊り下げた風船を飛ばせばロシア沿海州方面に対する浸透戦術が可能なのではないか?という話です。
アイデア的には面白いものの、いかんせん風まかせの風船なので部隊が分散してしまう危険性や、高空での兵員の防寒対策といった現実的な課題が山積していて、結局はお蔵入りとなってしまうのですけども。
結果はあまり宜しくないものとはいえ、過程はなかなか楽しそうで、テスト用風船に自分でぶら下がって空を飛んだりとか、ああこれ俺もやってみてぇ!と思えるものでした。

余談だけど、この研究資料をもし満州に侵攻したソ連軍が入手していたらどうなっただろうかと想像するとなかなか楽しいです。
何せ「雪の上ならパラシュート無しで飛び降りても兵器なはず!」と閃いて、兵員を輸送機からパラシュート無しでばら撒いて雪原に無数の深紅の花を咲かせたり、コンテナに緩衝材として藁を詰め込んでその中に兵員を入れて空から落としてみたりと、人命をチップにした諸々のエクストリームギャンブルには事欠かない国家です。風船に兵員ぶら下げて日本海超えさせれば日本本土攻撃余裕じゃね?とか考えて、結果日本各地に凍死したロシア兵が降り注ぐ様な喜劇をやらかしてくれたかもしれない。
いや、それどころか兵員ぶら下げたままアメリカまで飛ばそうとしたかも。(実際アメリカはふ号兵器を使って日本軍が工作員を送り込んでくる事を警戒していた)
うーん残念。



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2012年03月18日

スワロウテイル/幼形成熟の終わりの感想

スワロウテイル/幼形成熟の終わり (ハヤカワ文庫JA)
籘真 千歳
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1作目で完結してたと思ってたら2巻目が出てたでござる。
1巻(と言ってもいいのかな)で感じてた、作者の人の内面部分のあれこれが2巻では更にパワーアップして全面に出てきていて、その点に関しては評価が分かれるみたいですが俺は支持します。
というのも、この作品は壮大な作者の照れ隠しみたいなものが随所から感じられて、読了したあとなんだかニマニマしてしまうんであります。

例えばレギュラーの鏡子女氏の言動なんかは、ひところブームになったジコセキニン論を更に先鋭化させた様な、はっきり言って不快感しか感じられない物言い(この物言いを小気味良いと感じる方もいるらしいが、そういう人は多分「世間」と「自分」は隔絶した存在で合って、あらゆる世間の荒波や風雪は自分のところには届かないと盲信していられる幸せな身分の方だと思う)をズババンとやってのける訳でありますが、ではその鏡子さん自身はどうかというと、その言説を率先して体現しているとはお世辞にも言えない引きこもりで、決して独立独歩な無敵超人ではありません。
俺はジコセキニン論というのは、あらゆる意味で自己完結した超人にのみ許される理論であって、多かれ少なかれ他人の影響としがらみの中で義務と責任を共有しながらでないと生きられないい圧倒的多数の凡人が振りかざすべき言説だとは思ってません。
いや、別に言うのは個人の勝手なんですけど、それは天に向かって唾を吐く行為でしかないと。そういう話です。

ともかく、一見すると無茶言ってんなーと思えてしまう部分が悪目立ちしている一方で、物語自体はその正反対。
作者の人が本気で鏡子理論を信奉しているなら、今回の事件に関わった大半の人物は惨めに死にさらす筈なんですが、それなりの救済が用意されているわけです。一連の突き放す様な言動は何だったか…と言うと、やっぱり照れ隠しなんかなあ。
個人的にこの作品で一番好きな部分でもあります。


物語の方は中盤までバラバラに起きていた事件が終盤で1つに収斂される構成になっていて、若干力技も無きにしろあらずではありますが基本的にはテクニシャンといった感じです。
最後にどんとひっくり返しもありましたしね。
ちょっと読みづらい部分もありますけど、読了すればそうした不満もあまり感じませんでした。満足。



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2012年02月19日

修羅の戦野 2巻 攻防遼東半島の感想

修羅の戦野〈2〉攻防遼東半島 (C・NOVELS)
横山 信義
4125005397



ソ連軍満州侵攻第2巻。
冒頭のウラジオ沖海戦で宇垣纏率いる艦隊が航空攻撃を受けてフルボッコになるのは予想通り。
その結果遼東半島への支援が遅れるものの、山城扶桑が文字通り陸上砲台と化して奮戦する事でソ連軍の侵攻を挫き――旧式戦艦2隻で果たして奔流のようなソ連軍の進撃を止められるかどうか疑問は残りますが、大鑑巨砲の夢の残滓としておおらかな心で読みましょう。
その後いよいよ米軍も本格的に動き始め、巻き返しが始まるというところで2巻は〆。
日本軍の扱いが、米軍の本体到着までの時間稼ぎという点で自衛隊のそれに重なっているのは面白いですね。
パットン将軍を随分持ち上げていますが、前作の山口多聞といい、作者の人は敢闘精神旺盛なタイプの指揮官がお好きなんだなと思った。



posted by 黒猫 at 19:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 戦記・ミリタリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年02月16日

修羅の戦野 1巻 満州大侵攻の感想

修羅の戦野〈1〉満州大侵攻 (C・NOVELS)
横山 信義
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前作「修羅の波濤」は一応全巻読んだ記憶があるが、もう内容は忘れかけてます。
確か開戦劈頭主力空母がごっそりやられてしまった日本軍が、いかに巻き返しを通して図るか…と言うよりも、空母が無くなったんだから大鑑巨砲しか無いじゃない!な話だった気がする。
もちろん日本戦艦無双で圧勝!!な節操のない話ではなかったですが。

そしてこの修羅の戦野です。
今度は満州に侵攻してきたソ連軍が相手だという事で、陸戦メインですね。
従来の日本戦車ではソ連の機甲部隊相手には足留めにすらならないですが、対米講話後にアメリカからM4シャーマンが供与されていますから、何とか撃ち合う位は出来る感じ。と言ってもT-37/76相手の話で、いずれスターリンやT-34/85が出現することがあればどうなるかは分かったもんじゃないですけど。

流石に慣れない陸戦描写で疲れてきたのか、後半は海戦です。ウラジオに向かうガングート級戦艦3隻を撃沈すべく、角田覚治に唆された宇垣纏が日本に残された貴重な戦艦2隻を率いて第二次日本海海戦よろしく戦いに臨む…遼東半島まで押し寄せたソ連軍に対する対地砲撃の任をうっちゃって。
大鑑巨砲による艦隊決戦の夢に取り憑かれた宇垣はどう見ても死亡フラグ。
だがそれ以上に宇垣に艦隊決戦を吹き込んで炊きつけた角田こそがA級戦犯だお。
敵は前線ではなく身内ありってやつですね…。



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2012年02月09日

ヒュペルボレオス極北神怪譚の感想

4488541038ヒュペルボレオス極北神怪譚 (創元推理文庫)
クラーク・アシュトン・スミス 大瀧 啓裕
東京創元社 2011-05-28

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クトゥルー神話の括りの中に含まれてはいますが、独立で自己完結した世界観を持つ作品ですので、あまりクトゥルー云々は考えずに読んでもいいかも知れない短篇集。
なお、ヒュペルボレオスはかつて現在のアイスランドの辺りに存在したとされる架空の大陸でツァトゥグァの棲まう地でもあります。

で、この作品を一連のクトゥルー系譜の中に位置づけるとすると、原典の様な宇宙的恐怖という訳でもなく、かと言ってダーレス作品のような大風呂敷を広げている訳でもないなかなかに面白い立ち位置に感じられますね。
「白蛆の襲来」の様に邪神に近い存在を人の身(魔導師ですが)で倒してしまう話もあれば、「氷の魔物」の様に人知の及ばない圧倒的理不尽の存在に翻弄される話もあり、「七つの呪い」の様にどこか童話めいたシュールさを持つ作品もあると思えば「土星への扉」みたいに微妙にコミカルな作品もある。
敢えて語弊のある言い方をすればいいとこ取り的な味わいですから、原理主義的な視点で見るとやや引っかかる部分もあるかも知れません。
とは言え、最初に述べたように安易なギミック借用作品ではなく、独自の世界観を構築している作品でもあります。
「あまりクトゥルー云々は考えずに読んでもいいかも知れない」と書いたのは、まさにその点にかかってくる部分で、コズミック・ホラーではなくファンタジーとして読めば素直に楽しめますよって話なんですね。作品としての完成度自体は非常に高いですし。

個人的には魔導師エイボンと異端審問官モルギの、サイクラノーシュを舞台にした追いつ追われつ珍道中「土星への扉」がとても面白かった。最後は二人仲直り?してサイクラノーシュの地でのんびり余生を過ごしましたとさ的な終わり方も、後味の悪いオチが多いこの手の作品の中では異色と言えば異色。
ちなみにエイボンというと、あの「エイボンの書」の著者であるエイボンです。後世を舞台にした作品ではどこかおどろおどろし気に語られるエイボンですが、当人は案外普通のおじさんなのが微笑ましいですね。




posted by 黒猫 at 17:10| Comment(0) | TrackBack(0) | ホラー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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