2009年11月12日

本の姫は謳う 3巻 感想 多崎礼


別視点で続いてきたアンガスとアザゼルの話がかなり修練されてきた感じです。アークがアザゼル編のあれだったのかー!的な伏線の繋がりも見えてきて、作品自体がまとめに入ってきた感が強い。
ただ、ひたすら温度に差がある物語を平行線上で進行させてきたせいか、それぞれの物語が共に劣らぬ個性のようなものを持ち始めてしまい、これを1つにつなげるのは結構大変だろうなあという気も。
とにかくシリアスなアザゼル編、どこかお気楽なアンガス編。二人の主人公の性格がそのまんま話のムードまで強く牽引してしまっていますからね。
なお、もちろんこれは作品の瑕疵ではなく、それだけ一つ一つの物語の完成度が高いという事でもあります。

ともあれ本来なら完結となるはずだった3巻、まさかラストが1巻冒頭のシーンに繋がるとはと意外な展開でしたが、それだけに真の最終巻となる4巻が気になって仕方ないです(これ書いている時点ではまだ購入して無い)。
これまでの伏線を整理すると、残すところは姫にまつわる部分とアンガスとアザゼルの関係、あとはレッドの真意位でしょうか。

個人的にはスカタン人形なセラ様に最後はもっと出番をあげて欲しいです。3巻はインパクトはあるもののやや出番が少なかった気が。基本〜ですの系で時々ドキソな彼女の様子からは心の内圧の高さが伺えて、密かに本作品一番の見所だと思っているのですが(笑)。

“本の姫”は謳う〈3〉 (C・NOVELSファンタジア)
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2009年11月09日

亜欧州大戦記 2 東部正面電撃戦 青木基行



1巻終盤の流れを引き継いで、沿海州を巡る戦いが描かれるユラ戦第2巻。
1巻の異常なテンションはだいぶん落ち着いた感もありますが、特定の主人公を設けず個々の兵士視点で戦場を描く手法が七里積極的に使われていて、臨場感は相変わらず健在。「戦場」を描きながらも全体を俯瞰して「戦争」を描く事もそれなりに行われていて、沿海州地域の地図を眺めながら読むとより趣き深いものがあります。

しかし日本ソ連共に戦術がお粗末で、共に人命をあまり考慮していない戦い方をしている姿はなんとも諧謔味に溢れていて居心地が悪くなってしまう。戦車に火炎瓶で立ち向かうのも、ウラウラと吶喊するのも、当事者には(主に精神論的な見地で)それなりに言い分もあるだろうけど、第三者視点で見るとやってる事はたいして変わらない。
それこそ神風とターランに精神論以外の面でどれほどの差があるんだろうかという話みたいなものです。もちろんまだ作中では両軍共に体当たり戦法の愚は犯しちゃいませんが。

奇襲効果と天佑に支えられて何とか沿海州を制圧した日本軍ですが、あくまで満州の後背を衝かれる危険性を排除できたに過ぎません。戦場にはT-34もちらほらと現れ始めましたし、何より巻末で極東方面戦略総軍司令官にジューコフが就任した事でそろそろ辛くなってくるだろうなあ。


なお、上で兵士の視点云々と書きましたが2巻ではソ連兵視点が大半で、実はソ連軍が主役?と思ってしまうレヴェルだったのにふいたw
特に初期型T-34を受領して九七式改や百式砲戦車(史実の一式砲戦車)と対峙するスミルノフと部下2名のエピソードは秀逸。
この巻のメインといっても差支えが無い。百式に撃破されたもののなんとか脱出して生き残ったので、また先の巻で登場するかもしれない。楽しみにしておこう。


亜欧州大戦記〈VOL.2〉東部正面電撃戦 (歴史群像新書)
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2009年11月02日

ラビオリ・ウエスタン 感想 森橋ビンゴ




のっけからこう言う事を言うのもアレだけど、ガンアクションという体裁を取りながらその描写がメタメタでぐんにょりした。女殺し屋のラビオリが持っているのは作中の記述によるとマテバ。そして主人公にして見習い殺し屋のニョッキが持っているのは作中の記述によるとピースメーカー。
いずれも描写の感じから推測しているのではなく、文中に固有名詞で記されています。


さて、どの変がメタメタかというと。

@ニョッキが初めて同行したラビオリの仕事シーンで、突入した部屋にいた4人の男に1発ずつお見舞いして無力化します。その後、弾の補充をする描写も無く倒れている4人の男に1発ずつ撃ち込んで止めをさしています
つまりこの作中世界のマテバは8連発なんだそうです。
弾を補充する描写なんて地味なんで省いただけじゃね?とも思えますが、後にニョッキが仕事に参加し始めてからは頻繁に弾を補充するシーン(*後述)が描かれているので、ここだけ省くというのも変な話ではあります。

Aニョッキが初めて得物を手にする時の話。銃を見繕う際にラビオリが店主に対して「ニョッキにはあまり口径の大きくないものがいい」と言ってましたが、その割に選んだのはピースメーカー。
ピースメーカーの口径は.45口径ですから、はっきり言って大口径です。マテバが.357モデルだとすれば、ラビオリの得物より口径がでかい事になります。なんぞこれ?

B上で触れたニョッキが弾を補充するシーン。ピースメーカーは撃ちガラの排出方法と装填方法が特殊で、普通のリボルバーみたいにシリンダーをスイングさせてまとめて排出&装填が出来ません。
なのに作中では空のシリンダーを棄てて、弾の入ったシリンダーに交換したと書かれています。
はて?
はて?
はて?
たぶんこの作品を書く前に何らかの西部劇を見たのだと思いますが、たしか「夕日のガンマン」だったかで、パーカッション式のアーミーモデルをリロードする際にシリンダーごと交換するシーンがあったと記憶しています。
それを見て書いたんだろうな…西部劇のガンマンが持っているのは全てピースメーカーだと思っているというか、それしか知らないというのが原因なんだろう。


まだ細かいミスは多数あって、例えば敵の殺し屋フウヨウハイがラビオリを狙撃してきたシーンでは銃声が弾より先に届いたりといった奇天烈な出来事が起きていますがいちいち指摘するのも疲れるのでこれでやめ。
というか、書く前にネットででも調べて欲しいですよね。高価な専門書なんか買わなくてもwiki見るだけで判るレベルの事をエラーしまくっているって、どんだけいい加減な仕事やっているんだと。
あとがきで「この作品は文学だ」と壮大な冗談をかましたり、思ったほど作家として評価されてないと嘆くのも結構ですけど、何故そうなったのかはこの作品を読めば原因がわかると思うんだ。

肥大した自意識に満ちたリーダビリティ無視の文章、物事を一切リサーチする事無く執筆する姿勢、必要以上に攻撃的な内容…。結局記述エラーばかりが気になると言う事はそれだけこの作品に没入して読めてないと言う事でもあり、色々と構造的な部分が合わないということに行き着きます。
たぶんぼく自身が何がおかしいかも気付かない人だったら、これは凄い作品だ!遂にラノベは文学を凌駕した!!と絶賛していたのかもしれませんが…。


ラビオリ・ウエスタン (ファミ通文庫)
芥川 明
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2009年11月01日

戦場の画家 感想 アルトゥーロ ペレス・レベルテ


戦場カメラマンとして世界各地の紛争地帯を巡り、人の狂気を撮影し続けてきたフォルケス。
現在はカメラを捨て、地中海に面した田舎町の望楼に住み、一人で戦争の壁画を描き続ける日々。
そんな彼のもとにある日、もとクロアチア民兵のマルコヴィッチという男が現れる。
曰く、ユーゴ内戦の折フォルケスに撮影された事がきっかけで、セルビア人に囚われて拷問を受け、家族も失ってしまった。その復讐としてフォルケスを殺害しに来た…との事。
追いつ追われつのサスペンス的な展開になると思いきや、フォルケスとマルコヴィッチの6日間の対話を軸に、彼等が戦争の中と外で見て来た狂気を通して、人間の生きる理由と殺す理由を一種のメタ視点で綴る形而上学的作品。

全編を通して訥々とした語り口ながら、その圧倒的な閉塞感が凄い。
人の生死の瞬間を自らの人間性を排して撮影し続けてきたフォルケスの態度が、ありふれたヒューマニズムのフィルターを通さない生々しさを演出していて、決して目を逸らしてはいけない世界の現実の姿が垣間見える。
作者自身そうした現実に対して是とも非とも言及しないのは、作中のフォルケスと同じくもともと戦場ジャーナリストだった経験からなのか。もちろん是非を語らない事によって、事態を露悪的に見せる効果を狙っているのではあると思うけど。

終盤のフォルケスとマルコヴィッチの対峙と、そこから一気に雪崩落ちるような終末に関しては、様々な解釈が出来そうなのでちよっと感想をまとめにくい。
結局のところカメラマンもまた狂気を内包した存在に過ぎないと判断したのか、或いは恋人を失った時点で彼はもう死人同然の存在になっていたのか。
たぶん読んだ人の数だけの解答がある気がする。


重苦しい内容と異常な文字密度ながら、一度読み始めるとその吸引力は物凄く、自分自身が暗い塔の中で絵を描きながら語り合う二人の男を部屋の隅で眺めているような感覚に囚われます。
なかなか読み応えのある作品でした。たぶん絵画や写真の技法に詳しければもっと味わい深いものがある筈。


戦場の画家 (集英社文庫)
Arturo P´erez‐Reverte
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2009年10月31日

武打星 感想 今野敏


ブルース・リーに憧れ、アクションスターを目指して香港に渡った若者長岡誠が、苦難の末に俳優としての第一歩を歩み始めるまでを描いた作者得意の拳法活劇小説。

ブルース・リーの死で沈み込んだ香港映画界が、新しいスターの誕生で再び盛り返し始めた1980年代初頭を舞台としていて、子供の頃夢中で見たジャッキー・チェンやユン・ピョウなどのカンフー映画を思い出してなんだか和んだ。
そういえばジェット・リーことリー・リンチェイがデビューしたのもこの頃でしたっけ。

そんな個人的な思い入れはともかくも返還前の香港が舞台と言う事で、香港ノワール映画さながらの猥雑かつ無法な香港の姿が描かれていて、これがまた非常に興味深い。
今野氏の作風上多少の誇張があるのかもしれませんけど、今でこそ近代的なビル街となっているもののかつては東洋の魔窟なんて呼ばれた九龍寨城とかはどんなに誇張しても誇張しきれないほどにリアル無法地帯だったらしいですし、香港の産業はすべからく黒社会の影響下にあったなんて怖い話も夙に耳にしておりましたので、実際の所も小説の中並みに、もしかしたらそれ以上に怖い裏の面を持っていたのではなかろうかと思ったりもします。
日本だって幾つかの産業は暴力団と切って切れない関係にあるといいますし。

その辺を踏まえて読むと、誠を取り巻く環境が醸し出す底知れぬ不安感が読者にもダイレクトに伝わって来て、登場人物たちの台詞の一言一言が意味深に思えて怖い。
最後の締めは割と大団円でしたけど、それに至るまでの誰が敵で誰が味方かすらわからない居心地の悪さは特筆ものです。
ノワールものと言う程に血煙と硝煙臭が立ち込めている作品ではありませんが、かつての香港が持っていたらしい混沌とした雰囲気と、なかなか先が読めない展開は秀逸でした。最後やや強引にまとめた気もするけど、変に鬱エンドにされるよりはいいと思った次第。


武打星 (新潮文庫)
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2009年10月29日

ドラゴンキラー売ります 感想

ドラゴンキラーシリーズ完結編となる「〜売ります」、ですが、何か微妙に完結して無いような…。
とは言え、アルマを巡って送り込まれてきた4人のドラゴンキラーとのバトルは、町を戦場に変えるほどの派手なものになりましたし、事が終わって振り出しに戻ったような読後感も悪くは無いです。
だから、なんか完結して無いなあという印象もあるけど、それが決してネガティブな意味では無い。いつでも続きを書こうと思えば書けるけど、ひとまずはここでオシマイという計算された未完と言う感じですかね。

一応主人公のココが最後まで小悪党のままだったのは美点。
変に仏心を出したり改心したりする事も無く、基本的には自己中だけど微妙に甘いところもあるという当初のキャラ設定を崩す事無く描ききりました。
上で触れた微妙に完結して無い感じというのも、ココがラストまで好きにはなれないけど嫌いにもなれない人間性をぶれる事無く貫いたからこそと言うのは間違いなくある。リリィの言うように、町を離れていたとしたら、そして堅気として生きていく事になったら、それはもうココじゃないし、この先も物語は続くと言う感じはしないでしょうね。


と言う感じで物語としてのひとまずの終わり方そのものに関しては悪い印象はありませんが、やはり頁の都合なのか伏線をあっさり処理されたジンの様な存在があるのは気になるちゃ気になる。
章の始めのモノローグまで貰って伏線張っといて、回収する事無くあっさり死亡というのは寂しい。
全体として4人のドラゴンキラーはあっさり処理された感が強く、やはり1冊に4人ぶん詰め込むのは無理があったとしか思えない。処理こそされなかったけどアイロンも陰が薄いままだったし。

いつか第二期とかやってくれるといいな。ファンタジーとは言え筋書きそのものは海外のアウトローものドラマみたいな感じなので、シーズン化されても違和感無いと思うのですが。


*過去記事*
ドラゴンキラーあります 感想
ドラゴンキラーいっぱいあります 感想

ドラゴンキラー売ります (C・NOVELSファンタジア)

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2009年10月20日

這いよれ! ニャル子さん 感想 逢空万太



クトゥルフ神話に登場する人知を越えた存在の中でも特に嫌らしい意味でのトリックスターとして有名な、ニャラルトホテプを萌えキャラにしてしまえ!という冒涜的なコンセプトで描かれた宇宙的喜劇。
創元のラヴクラフト全集に飽き足らず、青心社の暗黒神話体系シリーズにも手を出してしまったような人、更には入手が結構困難な国書刊行会のク・リトル・リトル神話体系もバッチリだぜと言う(むしろラヴクラフト原理主義に陥らないためにも手を出す事を推奨)人ならば、きっとこれも許容できる。はず。
菊池秀幸氏の「妖神グルメ」みたいな珍作も読んだ事がある人ならきっとこれも理解できる。はず。
そうでない人はSANロールチェックしてください。そして正気度に余裕があれば手にとってみてください。


というかね、いきなりニャル子さんが宇宙人だ、ニャルラトホテプ星人だと言い出したときにはなんぞこれと思ったわけですよ。いくらクトゥルフ神話からインスパイヤされたにしても換骨奪胎著しいだろうと。
しかし、最後まで読むとちゃんとクトゥルフしていると言うか、作者の人は結構クトゥルー好きなんじゃね?というのがちゃんと伝わってくる。ニャラルトホテプやクトゥグァ、ルルイエにクトゥルーと言った大きなネタから、黄金の蜂蜜酒みたいな小ネタまでちゃんと仕込まれていてソツが無い。
ルルイエの屋台で黄金の蜂蜜酒が売ってるとかどんな皮肉だよ、みたいな。
また、「名状しがたいバールの様なもの」みたいに、御大のもって回った言い回しをネタにしているのも芸が細かくて好印象。
些か悪ノリしすぎている部分はあれども、クトゥルフ神話のシェアードワールド的な世界観の広がりを思えば、これもまた体系の末席に身を置いたとしても構わないかなと思います。


また、上で述べたとおり(表向きには)萌えジャンルではあるのですが、どこか醒めた視線で萌えそのものをギャグにしている部分があったりして、いわゆる萌え豚系とも微妙にターゲッティングがずれている点や、作品の元ネタにクトゥルフを選んだり、パロディを大量に仕込みつつもほとんど投げっぱなしにしている作風なんかも含めて、やや老成した雰囲気を感じるのが興味深い。
若さの勢いで書いたならもっとパッションが前に出ていても良いのですが、作中のニャル子さんよろしく掴み所が無くて何を考えて書いたのか今ひとつ判らない部分がある。それがまた思考回路が謎なヒロイン?とメタ構造を成していて…云々。

結論としては、うちにも一体ニャル子さん来ないかなーってことで。いや、宇宙の邪神ちっくな方々に狙われるのは御免ですけどね。


這いよれ! ニャル子さん (GA文庫)
狐印
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2009年10月19日

リングワールドの玉座 感想 ラリイ・ニーヴン



スタートは良かったのに…という作品の典型例。
リングワールドふたたびに登場した機械種族の女性、ヴァラヴァージリンを主人公にして、リングワールドで暮らす他の種族と共に吸血鬼退治に向かうという、外伝的な展開でスタートした本書。
SF路線と言うよりはファンタジーに近い展開ながらも、リングワールドで生まれ育った人たちの姿を内部の視点から見れると言う事で期待して読み進めていたとですよ。

したら、いきなりルイスの話に飛んで、ハインドモーストは変な踊りを踊って、ハミイーは隠居して?息子が出て来て、なんぞこれ状態。
終盤は地球やクジン星の艦隊がリングワールドに侵略してきたり、プロテクターが多数存在するインフレ状態になったりしてまとまりの悪いまま終了。
作者が描きたいものは理解しなくも無いのですが、幾つかの独立プロットを無理矢理1つに纏めたという感じで非常に構成が宜しくないです。

なんでも元々吸血鬼アンソロジー本の為に書いた中篇(序盤のヴァラが主人公の話)を元に、あれこれと付け足して長編に仕立て上げたとかで、その時点で失敗フラグが立っていた気がしなくも無いです。
むしろヴァラたちの大冒険に特化して加筆した方が素直に楽しめたと思えてならない。


リングワールドは壮大な世界だけに、ルイス達とは別の視点で描き出せる余地が相当あると思うのですよ。
それこそクトゥルフ神話みたいに基本ルールを決めた上で複数作家で描いても描き足りないくらいに。それだけに、ルイスやハインドモーストの登場は逆に世界観の広がりを阻害した感もあり、ちよっと残念な印象ばかりが残りました。

ま…こう言う事もあるさ。


リングワールドの玉座―ノウンスペース・シリーズ (ハヤカワ文庫SF)リングワールドの玉座―ノウンスペース・シリーズ (ハヤカワ文庫SF)
Larry Niven

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2009年10月16日

頭がよくなる速読術―どんな勉強も多分野学習法でスイスイ! 感想


一秒でも本を早く読みたいという希望は書評系サイトをやっている人なら大抵の人が持っていると思います。
僕もご多分に漏れずその口なので、速読系の本では定番といわれる本書を手にとってみました。

ちなみに僕の素の読書スピードですが、だいたい文庫本で見開き30秒程度。改行の多い作風の作家ならもっと早くなりますし、逆にラヴクラフトよろしく文字密度が半端無い作風だともっと遅くなります。
本書ですと、比較的文字が大きいことと、トピックごとに文章が整理されている事、そして実用書ですから小説のように登場人物の名前を覚えたりする必要が無い事もあって30分で読了した程度。まあ、そんなに早いほうでは無いですね。


で、本書の内容ですが、交感神経の異常とかポジトロン云々とか右脳左脳といった程好くオカルトじみた記述が目に付く事、随所に「個人差があって、誰でもイメージリーディングが出来る訳では無い」的なお断りが入っている事など、些か何ぞこれと言うという部分も無きにしろあらずですが、視点の動かし方や視野の拡散拡大といった、本を早く読む上で最低限必要な基礎部分はしっかりと解説されています。

ただ、その基礎部分に関しては個人的にすでにある程度理解しているので、これといって目新しい内容ではないのが残念。もちろんそれは僕自身にとっての話であって、一から始めようと言う人にとっては有用な本である事は間違いありません。
些か抽象的な例え話で頁数を浪費している節はありますし、しかもその抽象的なたとえがあまり適切でなくて、結果として核心部分を若干ぼやかしてしまっているきらいも無いわけではありませんが、入門用としては必要充分でしょう。
この本に出ているトレーニングを軽くするだけで、世間の平均値(本書によると1分400〜600文字)の2〜3倍位ならその日のうちにでも出せるとは思います。
逆に、本書で誇大広告気味に紹介されている分/3万文字とかはあくまで個人の才能の問題なので、あまり真に受けないほうがいいでしょう。ニュータイプ能力みたいなもので、適性が無いと到達できない域です。


なお、トレーニングは目の筋肉がかなり疲労するので、目薬は用意しておいたほうがいいかもしれません。


頭がよくなる速読術―どんな勉強も多分野学習法でスイスイ!頭がよくなる速読術―どんな勉強も多分野学習法でスイスイ!

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2009年10月15日

カンブリア爆発の謎  チェンジャンモンスターが残した進化の足跡




中国澄江で発掘されるバージェス頁岩の愉快な仲間達以上に奇天烈な生物化石を通して、前カンブリア期まで遡って進化の定説を見直してみようと言う一冊。
出版時期が新しい本だけに、これまで植物と動物の中間的存在とされてきたエディアカラ期のベント生物(現在このカテゴリーはありません)が、実は能動的に行動して捕食する動物寄りの生き物である可能性が高い事や、後の三葉虫への進化の萌芽が見て取れるパーバンコリナの存在など、興味深い記述が多数あります。

また、バージェスや澄江で発掘された生物達をイラスト付きで解説するのにも多数の頁を割かれていて、特にベッツリコーア門と呼ばれる謎生物はそのシュールさにおいてアロマノカリスやオパビニアと言ったカンブリア紀のアイドル達?をも凌ぐものが。既存の生物イメージに対する冒涜の一歩手前だよこれは…。


生物学に詳しい人向けにはどうかは判りませんが、なんとなく古生物に興味があるというレベルの人には(まあ、僕自身のことなんですけどね)非常に楽しめる一冊である事は間違いないですね。これを読むと、今まで大概にして奇妙だと思っていた既知のカンブリア生物すら普通に思えて来ます。
あまり難解な専門用語もありませんし、図を多用して読みやすい構成も心がけられていますので、機会があれば手に取ってもらいたい本です。



カンブリア爆発の謎 ?チェンジャンモンスターが残した進化の足跡 (知りたい!サイエンス)カンブリア爆発の謎 ?チェンジャンモンスターが残した進化の足跡 (知りたい!サイエンス)

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2009年10月08日

ダナーク魔法村はしあわせ日和―ひみつの魔女集会 感想 響野夏菜


1巻がダナーク村の長閑さを延々と描いていたからか、どちらかと言うとハートフル路線の作品だとばかり思っていたのですが、2巻に来て村の厳しい掟や村そのものの秘密の一端が描かれてみたりと、結構シリアスな物語になってきました。
少女向けレーベルのライトノベルは初めてで、ちょっと比較対照が無いから何とも言えないのですけど…普通のライトノベルになって来たなあ、と。
もちろん決してネガティブな意味ではなくて、最近の男性向けライトのベルのようにやたらパロディに走ったり、萌えをネタにしたりといった悪ふざけが無いぶん素直に読めますし、僕個人としても大いに楽しんでるのは事実なのですが、少女向けと言う事で想像していた乙女要素とかそういう類のものがあんまりないなーと。
たぶんこのシリーズがイレギュラーなんだと思ってますけどね。


その辺の事は置いといて、やっぱりファンタジー、それも比較的気軽に楽しめるライトファンタジーはいいなあ。
魔法の原理とか"あっち"の世界と"こっち"の世界の相関関係とかそういうのは適度に流しておいて、印象的なシーンの描写の方にリソースを割いていますから、とにかく場が連想しやすい。
腰を据えて重厚なハイ・ファンタジーを読むのも好きではありますが、仕事の合間の休憩時とかに気軽に読めるものではないですからね。

ただ一つ心残りなのは、せっかくあっちの世界で命懸けの冒険をやったと言うのに、イズーとビーの関係があんまり進展した気がしない事でしょうか。吊り橋効果くらいあってもいいだろう…。
やはりビーからしたら相手がお巡りさんというのが心理的な壁になっているんだろうか。
この辺、シリーズ最終巻までにどう変化していくのかはマイ注目点ではあります。


ダナーク魔法村はしあわせ日和―ひみつの魔女集会 (コバルト文庫)ダナーク魔法村はしあわせ日和―ひみつの魔女集会 (コバルト文庫)

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2009年10月04日

超・空挺砲艦「火龍」1 大逆転!ガダルカナル戦 陰山琢磨 感想

タイトルはあれだが内容は比較的ハード。

物語の中心に存在する空挺砲艦の存在もさることながら、あくまで陸軍主導で攻勢限界点を早期に設定して持久戦の構えに持ち込む展開に新鮮さを感じた。
ヨーロッパの様に陸続きの国境がある訳でも無い太平洋の場合、必然的に米軍の侵攻ルートは限定されてくる訳で、そうした進路上の要衝となる島嶼の補給及び整備能力さえ定期的に漸減してボトルネックを作れば比較的持久も可能かもしれない――という幻想を見させてくれる。

そうした漸減の要となるのがタイトルにもある空挺砲艦…現代で言うガンシップであり、これの編隊でガ島やポートモレスビーを定期的に襲撃する事で兵力の集中を妨害し、ヘンダーソン基地の拡張も阻止しようと言う大胆極まりない戦術。もっとも、史実のニューギニア戦では米軍の少数の爆撃機による日本軍基地への嫌がらせのような空襲が連日行われた記録もあるので、その立場を逆転させただけと言えなくも無いです。


兵器レベルの改変ではB-17に衝撃を受けた日本が総力を挙げて開発した4発重爆「火龍」と、それをベースに75ミリ砲と40ミリボフォース砲、連装20ミリを搭載した空挺砲艦(ちなみに米軍の双発爆撃機B-25にも対船舶攻撃を意図して75ミリ砲を搭載したモデルが実在します)だけでなく、敢えて隼を捨てて鍾馗を一式戦闘機として採用したりといった、陸軍強化策があれこれ施されているのが楽しい。車両関係も史実より強化されている模様ですが、1巻ではほとんど出番が無いのでこれは保留。
1巻終盤の米軍爆撃機による大規模空襲に際しては空挺砲艦の75ミリ砲でB-17と空中戦を行ったりと、なかなかに無茶をやっているのも面白かった。
これも史実では大戦末期の本土防空戦で、対B-29の切り札として四式重爆に75ミリ砲を搭載したキ109と言う機体が生産されているので、あながち荒唐無稽ではありません。
この辺りのソツのなさは流石陰山先生と言ったところ。


超・空挺砲艦「火龍」〈1〉大逆転!ガダルカナル戦 (コスモノベルス)
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2009年10月03日

本の姫は謳う 2巻感想 多崎礼



アンガス編と「俺」編のリンクがおぼろげに見えてきた感のある第2巻。
一応3巻完結予定だったけど、諸般の都合により全4巻になったと言う経緯があるとは言え、物語の骨格部分はそろそろ見せてくれてもいいかなあと思うので、アンガスの家族の話や姫との出会い、「俺」とリグレット、そして聖域とネイティブとの相克と言った部分を描いてくれたのは個人的に良かったと思います。

が、その一方で物語のメインにはあまり関係の無いスベル回収部分がかなりなおざりに処理されていて(まあ一つ一つ丁寧に描いていたら本が何冊になるか判ったもんじゃないとは言え)、これは無いよなあと思った次第。
やっぱり3〜4巻程度に収めるには話のスケールが大きすぎるのかもしれません。


セラとアンガスの旧友ウォルターを巡る展開はそれなりに面白かったかな。アンガスが絵に描いたような草食系なので別に三角関係とかそういうのは無いですけど、それなりに読者をやきもきさせる事には成功していたと思います。
言葉を取り戻したセラの口調には賛否両論ありそうですが、個人的にはお嬢系のですの調と、いかにも民草っぽいワイルドな言葉が不自然にミックスされた味わいは嫌いでは無い。
なんというか、ねるねるねるね的な心地よいグロテスクくさを感じると言うか。褒めてんのかけなしてんのか判りませんね。我ながら。


と言う訳で、一つ一つのエピソードそのものは悪く無いんですけど、全体の構成としてややまとまりが悪く感じました。
中盤の中だるみですかね?


“本の姫”は謳う〈2〉 (C・NOVELSファンタジア)“本の姫”は謳う〈2〉 (C・NOVELSファンタジア)

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2009年09月23日

アブロ・ランカスター爆撃機―ドイツを崩壊させた英空軍機 鈴木五郎

アブロ・ランカスター爆撃機―ドイツを崩壊させた英空軍機 (光人社NF文庫)
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冒頭、ポール・ブリックヒルの「暁の出撃」に描かれたルール地方のダム破壊作戦からスタートし、第一次世界大戦前の航空機黎明時代に遡ってA.V.ロー(アリオット・ヴァードン・ロー)によるAVRO社の設立と躍進からランカスター爆撃機の完成、終盤はトール・ボーイ爆弾による戦艦ティルピッツ撃沈で掉尾を飾るまでが描かれた一冊。

同じ作者の「フォッケウルフ戦闘機」に比べると事実を捻じ曲げたような贔屓ぶりは控えめになっていて、比較的安心して読めるのが特徴。
とは言え、資料が古かったのか幾つかの記述ミスも散見され(ドイツ夜戦に搭載されたシュレーゲ・ムジークの件とか)、純粋に兵器のカタログスペックを見たい向きの人にはあまりお勧めできないですね。

しかし多少のエラーは知識で補正して、イギリス人の粘着質な大規模報復爆撃や黎明期の電子戦といった、機体運用の方を読み物として愉しむぶんには全く問題ありません。
特に上でリンクを貼った「暁の出撃」と併読すると、ランカスターと言う爆撃機の魅力がより伝わってくると思う。
個人的には先に「暁の出撃」を読んでからこちらを読む方が理解が深まる様感じます。
メインで読むにはやや物足りない、副読本と言う感じでしょうか。



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2009年09月22日

ダナーク魔法村はしあわせ日和―都から来た警察署長 感想 響野夏菜

ダナーク魔法村はしあわせ日和―都から来た警察署長 (コバルト文庫)
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ドが付く田舎、ダナーク村の警察署に所長として赴任する事となった首都警察の捜査官イズーと、一癖も二癖もある村人達とのハートフル・コメディ・・・ なのかどうかはよくわからん。
田舎を舞台にした作品にありがちなゆるゆるとした癒し路線と言う訳でもなく、かと言って都会と田舎のギャップに慄くだけの作品でもなく。
正直ジャンル別けはちょっと難しいです。ですが、一つ確実に言える事は"この作品は文句なしに面白い"。


作品の面白さの一因として、素直な展開というのが大きいと感じます。
最近は何かとトリッキーだったりパロディが盛り込まれていたりする作品が沢山ありますが、この作品の場合はひたすら直球。と言っても展開が平板という意味ではなく、無理に捻ったりウケを狙ったりしていないと言うか。
だからライトノベルというよりはジュブナイルに近いかも知れません。
1巻はダナーク村とそこの住人たち、そしてイズーがダナーク村に赴任する切欠となった事件の説明がメインだったので、まだまだイズーと村の突撃魔女ビーの関係とかは進展も何もあったものじゃないですが、それについては2巻以降に期待したい。

また、舞台となるダナーク村そのものが持つ魅力もなかなかのものです。
のどかで平和でそれなりに活気もあって、余所者に好奇の目を向けたり村独自のローカルルールがあったもりするけど基本的には牧歌的な世界。殺伐とした要素もほとんどありません(皆無という訳ではないが)し、いいなあこういうの。
あとはこうした設定を、続巻でどう膨らませていったのかが気になるところです。



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2009年09月19日

エンデュミオンエンデュミオン 感想 平谷美樹

エンデュミオンエンデュミオン (ハルキ・ノベルス)
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神と呼ばれる存在と、人間(厳密には科学文明か)との相克を描いたSF大作。
なんだと思うんだけど、正直あまりSFらしさは感じません。

その最大の理由が物語の舞台となる21世紀前半世界の描写で、月面での資源開発が始まったり、ブースター無しで大気圏を離脱可能なスペースプレーンが実用化されていたりはするものの、その他の部分では現代とほとんど変わらない。
そういう意味で所謂SF小説ではなく、ハリウッド映画的な何かの方を強く感じざるをえない。
もっとも、その辺に関しては、物語がほとんどアメリカの地方都市を中心にして進むし、大統領が陰謀を巡らせたり、第二次世界大戦終結直後からアメリカの暗部を司っているある存在が登場したりと言った部分の影響もあると思います。
陰謀論はハリウッド映画には欠かせれない要素ですし。

と、こんな事を書くとアメリカ映画的なライトなノリの作品かと思われそうですが、決してそういう訳ではなく。
ユング辺りを引用して科学の及ばない存在に言及しつつも、衒学的に陥らないギリギリのライン上で踏みとどまっているという感じです。
この辺は賛否両論ありそうですけど、個人的にはアリだと思う。
作者の思索を書く本ではなく、小説と銘打っている以上まずは小説としてのリーダビリティを最優先するのは当然の事で、神や集合無意識に対する作者なりの考察はその次でいいです。そのバランス感覚を見失って、なんだかよくわからない代物になってしまっている作品も過去に幾つか見てきただけに…。
ノベルスで400P、文庫で言えば500P程度の大作だけに、まずは物語として面白くないとテンションが維持できませんからね。

個人的にはテーマにやや食い足らなさを感じたけど、この作家さんは本作品と同じテーマの作品を複数発表されているので、それらを読む事で相互補完が出来るのかもしれません。
その辺りについてはまた他の作品を読んだ機会に触れる事にしたいと思います。



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2009年09月18日

“本の姫”は謳う 1巻感想

“本の姫”は謳う〈1〉 (C・NOVELSファンタジア)
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最近では結構貴重かもしれないロードムービー調のファンタジー。
前作「煌夜祭」が重苦しい閉塞感に包まれた作品だったのに比べて、登場人物が全体的にノリが軽くてライトノベル的ではあります。
ラノベ的ムードを特に強めているのはツンデレな本の姫様と、お調子者のジョニーかなあ。別に否定的な意味ではありませんが、こういう比較的属性のはっきりしたキャラクターが登場するといかにもな感じになるのは否めません。
もっとも、全4巻の長編である事を考慮すれば、こういう雰囲気の方が気楽に読めるのは間違いないですけど。


1巻と言う事で、やはり世界観や登場人物の説明を兼ねた展開が描かれてはいますが、解説臭くならないようストーリーの中に自然に作品の基礎設定を織り込んで描いているのはよいですね。
奇抜な世界観だった前作に比べて、基本的な世界観に西部開拓時代の雰囲気を拝借しつつ、本やスペルといったこの作品独自の設定が簡潔かつ効果的に配されているので、物語の舞台となるソリディアス大陸世界をイメージしやすいのは最大の美点。

また、主人公アンガス視点と、時代も場所も判らない"俺"視点の2つの軸で進行する物語に関しても、前作を読んでいる人間には別々の物語がどう絡み合って1つになるのだろうかと予想する楽しみがある。
前作を読んでないと構造的にやや戸惑う可能性もあるかもしれませんけどね。

ここ何年かファンタジーものに飢えていた事もあって、これは楽しみなシリーズ。



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2009年09月17日

月の裏側 感想 恩田陸

月の裏側 (幻冬舎文庫)
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地方の水郷の街を舞台としたホラー風味の物語。
導入部こそ街で続発する不可解な失踪事件というミステリー風味のものですが、中盤から一気にSF的要素を含むホラーに。この中盤の正体不明目的不明の存在を巡る展開がとにかく怖い。
それは水に同化して人を"盗む"存在の怖さでも、盗まれた人間が人間のような何かに変えられてしまう事への怖さよりも、一体何が目的で人を盗むのか、そして盗まれた人間はどうなってしまうのかという未知への恐怖が大きい。

いつの間にか住人が人間以外の何かに変わってしまった街という設定はわりとよくある設定だし、不定形のモンスター?だって格別珍しいものではありません。
そこで、敢えて恐怖の軸足を事象そのものから先の見えない不安感の方に移したのでしょうけど、それが成功していますね。
反面、終盤でのある程度(あくまである程度であって全てではないのがポイント)種明かしがなされてしまってからの展開は恐怖感というよりは不条理感の方が勝ってしまった気がします。
町の住民が消えてしまった事に対する自治体レベルでの反応(伝染病の疑いによる隔離)も何か釈然としないものがありましたし、それ以上に特に最大のギミックである多聞の存在が、結果的に恐怖間を打ち消してしまった感は否めない。
もちろんそれも計算ずくで、敢えて釈然としない事象を積み重ねる事で不条理感を煽っている可能性もありますが。
さて。


なお、元ネタは作中でも言及されている「盗まれた街」という海外小説だそうです。
こちらもそのうち読んでみたいですね。



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2009年09月12日

光降る精霊の森 藤原瑞記 感想

光降る精霊の森 (C・NOVELSファンタジア)
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うん、ファティがかわいいね…。
…おっと、作品の内容に関してはもう描く事が尽きたぞ(汗)。

なんというか、この作品、下地となる世界観の設定は物凄く良く出来ていて、精霊の設定とかエカラートの城とか、その他旅の途中で食する野外料理に至るまでとにかく描写が細かいのが特徴的です。
そこまで詳細に書かなくてもストーリーには何ら差し支えないだろうと言うレベルまで書き込むことによって、作品世界をありがちなライトファンタジーよりももう一歩突っ込んだものとして際立たせていて、読んでいる僕の脳裏にも次々と情景が質感を伴って浮かび上がって来るのが美点。

しかしその反面、物語そのものは極めてこじんまりとまとまってしまっていて、なんとも地味。
たぶん、この作品の世界を主人公を変えた短編形式で様々な角度から描くと、SFによくある「××シリーズ」みたいな感じで膨らんでいく素地があると思うのですが、いかんせん一冊きりではせっかくの世界観もその魅力を発揮する間も無く終わってしまった訳で、実に勿体無いといわざるを得ない。

悪く言えば設定に拘り過ぎてストーリーがお留守気味と言う事なのですが、しかしかつて異世界を想像(創造)しては楽しんだ経験のある人なら、この作品から漂ってくる一種独特の拘りには共鳴するものがある筈。
セールスの問題もあったんだろうけど、気長に育てて欲しかった作家さんかもしれません。


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2009年09月07日

ジェット空中戦―朝鮮戦争からフォークランド紛争まで 感想 木俣滋郎

ジェット空中戦―朝鮮戦争からフォークランド紛争まで (光人社NF文庫)
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第二次世界大戦以降勃発した主だった戦争の中から空中戦にのみ焦点を絞り、戦後の航空機の発展史を俯瞰した一冊。
当たり前の事だけど戦後の軍用機についてはほぼ米ソの独壇場に等しく、それにフランスがかろうじて続いているという具合。
戦後のいわゆるジェット戦闘機は、大戦機に比べるとやや人気が落ちるきらいがありますが、これはきっと第二次世界大戦の僅か5年強の間に猛烈な勢いで世代交代と進化を繰り返した密度の濃さに原因があるんだろうなあと思っています。現代の戦闘機は初期型が生産されて以降改良に改良を重ねながら30年以上使用されているものも珍しくなく、それだけに変化が乏しいものに感じられてしまうのは否めない。
しかし、この本で取り上げられている、朝鮮戦争〜フォークランド紛争までの期間のジェット機については、第2次世界大戦におけるレシプロ機以上の、それこそカンブリア紀の生物大爆発にも等しい多様な進化を遂げているのに気付かされます。
シューティングスターやサンダージェットとF-15では、それこそ複葉機とP-51以上に設計思想にも運用思想にも隔たりがあって、大きな戦争こそ無くても断続的に勃発し続けた地域紛争を通して各国が常軌を逸した開発競争に邁進していのが感じられる訳です。

そういう事で、現代ではミリタリーマニアにしか余り馴染みのないゴールデンエイジの航空機達に思いを馳せる事ができる貴重な本書。個々の戦争や飛行機に対する掘り下げは深くありませんが、ジェット戦闘機なんてみんな同じ様な形で退屈だと思っている人にこそ読んでもらいたい。


なお、80年代以降のジェット機がどの国の機体もほぼ似通ってきた(双発双垂直尾翼もしくはカナード付きデルタの2パターン)のは、ある種の収斂進化です。陸戦兵器と違って国土の事情にあまり左右されない航空機は、どうしても進化の果てには没個性の領域にたどり着いてしまう宿命があるのかもしれません。



posted by 黒猫 at 22:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 戦記・ミリタリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする